はじまりはペヨーテだった 最終回
目の前にはペヨーテとバナナと水。 いよいよ私オリジナルの成人の儀式が始まった。 真剣なお祈り(オリジナル)をして、ペヨーテを思い切ってかじった。 「・・・ぐっ、うぐっっ。。。」 両方顎の奥からジュルジュルと変な唾液が上がってきた。同時に、腹筋と横隔膜がグゴッグゴッと大きく波打ち始めた。 「おぇぇっ。。。」 思いっきり吐き出した。 これまで体験したこともないようなおそろしいほどの不味さと、不氣味な食感に、全身が全力で拒否反応を示していた。 本能が、これは身体に入れてはいけないものだと警報を鳴らしていた。 初トライのひとかじり目から、あまりにも衝撃的だった。 「オレ、絶対、無理。」友人はあっさりと敗北を認めた。そして始めからこうなるだろうとわかっていたかのように、ゴロンと横になって、持参していた本(大地の子) を読み始めた。 残された私とペヨーテ。。。 厳しい戦いになると腹をくくった。 そうだ、バナナがあった! バナナを一口かじり、すかさずペヨーテを少しかじり、ガジガジ噛んで飲み込んだ。 「・・・ぐっ、グッ、グッ、グオエェェッ。」 また吐き出した。 腹筋と横隔膜が怒っているかのように、グゴングゴンと波打っている。 水で口をゆすいで、冷や汗と涙をふいた。 ふぅ〜っとひと息ついた。 負けてたまるか。 次は、さっきより少量のバナナとペヨーテをすばやくかじって、ガジガジっとやって、すかさず水で流し込んだ。 身体中をぎゅっと縮こませて息をとめた。 ググゥッと動き出す横隔膜を押さえ込んだ。 喉を通った固形物が食道を通り、胃の中に入ったのを感じた。 そう、そのままおさめよ。受け入れよ。 息をとめたまま、念じるように身体に言い聞かせた。 ゆっくりと全身の力をゆるめていった。 身体はしずかだ。 ふぅ、ペヨーテをとうとう私の胃におさめることができたようだ。 しばらく、しずかに何かが身体に起きるのを待った。何も起きない。 やはり、足りないか。。とりあえずあるだけのペヨーテをいただくしかない。 ぐえぐえ言いながら、必死で残りのペヨーテを少しずつ胃に落としこんでいった。 そしてそれは、突然やってきた。 あたりがみるみる眩しくなったかと思うと、 太陽の光が雨のように降り注ぐのが見えた。 驚いて顔をあげた。 あたりはもう、陽の光のシャワーに包まれていた。 同時に、大地に生える草木がゆらゆらと動き出した。光のシャワーに絡みつくようにゆらゆらと上に伸びていく。 ほわんほわんと柔らかいものが顔や腕にからみつく。 シャラシャラと不思議な音が聞こえる。 風だ。 目の前の光のシャワーと植物が、風に踊るようにゆらめいていた。 その不思議な光景に呆然とした。 私にも光は注ぎ、優しく包まれ、時折何かがふわりと撫でていった。 感動で涙が溢れ始めた。 あっちからもこっちからもシャラシャラという音が聴こえていた。 どれくらい経ったのだろう。 「もうそろそろ帰らないと。」 友達が声をかけてきた。 本当はまだまだ優しい光に包まれていたかったのだけれど、自分をとりまく現象も少しずつ薄れてきた頃だった。 「そうやな。」 ぼんやりと帰り支度を始めたその時、砂漠の遠い向こうから誰かがやって来るのが見えた。 手を振っている。どうやら白人のカップルのようだ。 彼らは少しスピードをあげて私たちのところに向かってきた。 「水、水をちょうだい。」 長い間砂漠を歩き続けてきたようだった。 水を持ち上げた時、異様な匂いに吐き氣がした。ポリタンクの匂いだ。 どうやら、嗅覚も敏感になっていたらしい。 そんな水、飲めたもんじゃない。 好きなだけ飲んでくれと水をあげた。 帰り道、遠くに見える山脈が西陽に照らされて、ものすごく美しかったのを覚えている。 まだ感受性が高ぶっていたのだろう。 14キロの道のりなんてへっちゃらだった。 私ひとりの感動的な幸せな世界に入り浸っていた。 友人と白人カップルのことはよく覚えていないが、ひとつだけ覚えているのは、 「自然はこんなにも美しい。」 とつぶやいた私に、 「いや、自然は厳しい。」 白人夫婦が言ったこと。 それは、もうひとつの核心だと思った。 こうして私の二十歳の儀式(オリジナル)は無事遂行された。 ペヨーテの儀式は、 私たちの通常の五感では感知できていないものがあるということを教えてくれた。 この世は見えないエネルギーのようなものに溢れていて、私たちもそのエネルギーに包まれるようにつながっている。 その体験は、今の私をカタチづくっていく大事なはじめの一歩だったんじゃないかと今になって思うのだ。 おわり ...
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